岡田テクノ特許事務所

レストラン・ホテルビジネス関連発明に関する特許概況

最終更新日:2020/06/23


1)はじめに

 ビジネス関連発明とは、ビジネス方法が情報通信技術を利用して実現された発明です。
 販売管理、物流、注文、会計、課金、生産管理等のビジネス方法自体は、自然法則を利用していないので特許の対象ではないですが、情報通信技術(ICT)を利用して実現された発明は、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。
 以下、そのビジネス関連発明にかかる特許をビジネス関連特許と呼ぶことにします。
 レストラン・ホテル業のようなサービス業に関しても、ビジネス関連特許として登録されています。
 ここでは、その傾向、状況を概観してみたいと思います(2020年6月現在)。


2)調査範囲

 レストラン・ホテル業に関連するビジネス関連特許であって、権利生存中の日本の特許(特許権が存続していて消滅していないもの)を調査します。
 具体的には、ビジネス関連発明の特許出願に付与されている特許分類(FI)であるG06Qのうち、ホテル業またはレストラン業に関連するもの G06Q50/12に限定しました。
 調査期間は2020年5月登録分までで、期間内に約700件の特許がありました。


3)時系列で見た特許件数の推移

 約20年間(2002年~2020年)の特許件数の推移です。
 年々件数が増加し、2018年には90件を超えています。
 このグラフは特許登録件数であって特許出願件数ではありませんが、近年の出願件数の増加が登録件数の増加につながっていると考えられます。

レストラン・ホテルビジネス関連特許の特許件数の時系列推移


4)主な特許権者の状況

 特許権者ごとの特許状況です。
 TO社はPOS端末、SE社やCA社は時計や電子部品、NE社はITサービス、GU社はサイト運営、RA社はネット通販、EP社は受付サービスと、ひとことでIOTといっても、強みとする技術は企業ごとに当然異なるため、多種多様の企業が出願、権利を取得しているようです。
 それぞれの会社紹介ページを拝見すると必ず出てくるKWが「ソリューション」です。
 これらの特許群もそのソリューション技術のベースになるものかも知れません。

レストラン・ホテルビジネス関連特許の特許権者ごとの件数上位ランキング


5)特許に登場する主要KWのネットワーク図

 ビジネス関連特許には、決済・課金・請求管理に関するものも当然見受けられますが、予約や注文を含む業務支援、顧客に対するサービス提供に関するものも多く見られます。
 そこで「予約」「注文」「調理・料理」「宿泊」という単語の相関ネットワーク図を描いてみました。
 これらのKWは、当該ビジネスの実際の課題に関連し、これからもアイデアの発想の元になる可能性が高いと考えられます。

5-1)注文

 注文に接続する単語は比較的多岐に渡ります。潜在化している課題を解決するアイデアもさらに生まれてくると推測されます。
 例えば、「タイミング」というKWが見受けられますが、注文を受けるタイミング、料理を出すタイミング、タイミングが合わないときの対処等、現状を改善できるアイデアが生まれそうです。

レストラン・ホテルビジネス関連特許:「注文」連関図

5-2)料理・調理

 個人の経験、勘、技量に依存する部分が多い分野です。
 しかし、「注文」や「食材」との関係や、「手順」「作業」への「指示」「支援」等の、IOTが活用できる課題も少なからず存在し、例えば「風景」「ターミナル」「始期」「選択」等がアイデアの種になるかもしれません。

レストラン・ホテルビジネス関連特許:「調理」連関図

5-3)予約

 レストラン・ホテルにおいて、「予約」するための「サイト」の利用は今やごく一般的になっており、比較的IOTが活用されている、また、活用しやすい分野と考えられます。
 「順番」「待ち」を解消するのか、活用するのか、「解除」や「キャンセル」への対応や活用等、一般利用者にも身近な課題がありそうです。

レストラン・ホテルビジネス関連特許:「調理」連関図

5-4)宿泊

 「宿泊」はチェックイン・アウトや予約の課題と、宿泊部屋・環境についての課題に大きく分かれるようです。
 宿泊部屋・環境についての課題に関しては、部屋に入ってからはホテル側から干渉や監視をされたくないと感じるユーザは多いでしょうし、意外にIOTを利用しにくい状況も多いと思われます。
 「ユーザ」の要望を的確にとらえるための「プログラム」の提供や「端末」「指定」「グループ」などがアイデアのカギになるかもしれません。

レストラン・ホテルビジネス関連特許:「宿泊」連関図


6)最近の特許に見られる具体的な解決課題

 最近のレストラン・ホテル業に関するビジネス関連特許における解決課題の例です。
 (※特許の詳細内容に関しては各特許公報を確認する必要があります。)
 本線である業務支援・業務管理に関するものが多いですが、顧客やユーザへのサービス・利便性追求、情報提供に関するものも目立ちます。

6-1)業務支援・業務管理

 ・予約要求に応じて座席レイアウトを自動的に設定
 ・地域による食材、調味料及び調理方法の差異についての情報提供
 ・調理環境と選択されたレシピとに基づいた調理支援
 ・商品の調理盛付画像と、画像に紐付けされた作業指示書を出力
 ・施設の稼働効率の向上を支援することが可能な決済支援
 ・顧客の退店から片付けまでの時間の無駄をなくし稼働効率の向上を支援
 ・予約作業時の操作性を向上する予約管理装置
 ・作業効率と顧客ニーズのバランスを考慮して座席や部屋等に顧客を配置
 ・ミスや漏れが発生しないメニュー情報と端末との紐付けを行う
 ・宿泊設備を提供する宿主側の選好を考慮しての宿泊予約マッチング
 ・食材の在庫状況に応じて販売促進するメニューを変更
 ・自走型掃除機の掃除に伴う埃又は騒音の影響が小さい領域に客を案内
 ・チェックイン時、旅券や身分情報等の本人情報の入手状況を確認
 ・処理時間または待ち行列長に基づいて注文処理対象を決定
 ・客席で電子マネー残高確認及び注文に応じて料理搬送
 ・画像情報、画像認識に基づいて客席の改善(客席の形態や客席数等の改善)
 ・ユーザから送信される注文情報に基づいて店舗の在庫情報を更新
 ・予約キャンセルの際、即時に空席情報を通知、別の予約で空席を即時補充
 ・時間ごとの満空情報に基づいて、日及び時間帯ごとの適正価格を算出
 ・チェックイン端末での選択言語が外国語である場合に旅券画像を取得
 ・利用予約時にデジタル通貨で前金を送金(予約キャンセル抑制)
 ・手を使わず音声のみで業務マニュアル情報提供
 ・ドライブスルー型店舗での画像による車両追跡、顧客状態把握
 ・顧客退出時にカプセルユニットの照明状態を変更(清掃の作業効率性向上)
 ・料理の消費電力及び使用時間の情報から調理機器の調理スケジュールを生成
 ・空席状態又はテーブルからの呼び出しを識別可能に表示する入力端末
 ・会計ボタン等の全ての素材を自由に配置可能なセルフオーダーシステム
 ・コンビニエンスストア、レンタカー業者等を利用したチェックイン手続き方法
 ・顧客の携帯機器の現在位置を取得、注文後の顧客の位置を把握

6-2)顧客へのサービス・利便性追求、情報提供

 ・顧客が所有する携帯通信端末により自分で料理や飲み物などを簡単に注文
 ・顧客がカクテル等を作る疑似体験
 ・店舗側が指定した予約方法を意識することなく予約を行える
 ・チェックイン手続きの利便性を向上
 ・メニュー情報を、実際に来店したユーザの嗜好を反映したものに動的に変更
 ・グループのメンバごとの個別会計、割り勘処理
 ・顧客自身の携帯通信端末を用いて、自分で料理や飲み物などを簡単に注文
 ・通信を用いた遠隔食事会の設定、料理提供可能な店舗の提示
 ・ユーザが持つトレイで、容易に空席を見つける
 ・混雑状況の要因を考慮して、自動的に適切な待ち時間を産出
 ・希望するサービスに対して順位が高い施設から順に提案
 ・飲食物単価と時間利用料金を含む合計料金を算出(飲食店と利用者の両者の満足度向上)
 ・宿泊客情報及びリクエストに基づいて商品サービス情報を客室にて提供
 ・設置席数と席利用者数に基づいて施設内の空席情報を提供
 ・利用者の到着予定時刻に基づき、チェックイン操作画面変更


7)総括

・レストラン・ホテルに関するビジネス関連特許の登録件数は年々増加しています。
 「モノ」の提供だけでなく、「ソリューション」の提供が活発化し、ビジネスの産業構造が変容する中で、ビジネス関連発明の特許出願件数自体が増えていることが背景にあると考えられます。
 
・尚、抽出した特許の約7割が、特許請求の範囲に「システム」というKWを含んでいます。
 サーバまたはクラウド、分析機器、通信、端末が有機的に結合して新たなサービスを生み出すというモデルが一般には想定されるため、「システム」の特許が多いのは当然だと思われます。

・ところで、権利者のビジネス形態や侵害の形態を想定した場合に、必ずしも「システム」の特許だけで十分ではない場合もあります。特許侵害が成立するか否かは、権利一体の原則の下、被疑侵害品(システム)が特許発明の構成要件のすべてを充足していること、また、権原なき第三者が業として特許発明を実施していることを要するところ、当該第三者がシステムの全体を実施しない場合もあるからです。

・このため、特にビジネス関連発明に関しては、想定する現在及び将来のビジネス戦略や競合他社の動き等を鑑みた上で、特許出願内容(公知技術、クレーム範囲、実施例)を多角的な視点から検討する必要があると考えます。(→出願前の入念なヒアリングと検討に重点)。


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