業種ごとの特許・商標登録の傾向と知財戦略の方向性
最終更新日:2021/10/14
1) はじめに
企業の業種、規模によって、技術戦略、マーケット戦略等の企業戦略は多様化します。
企業戦略が変われば、知的財産戦略も変わり、その変化は特許・商標登録の傾向に現れるはずです。
逆に知的財産の傾向を見ることによって、企業戦略の一端をつかむことができます。また、業種ごとの傾向を分析し自社の現状と比較することで、自社のこれからの方向性を決める指針となりえます。
2)主要企業の特許・商標登録件数の全体
主要企業263社について、それぞれ、権利存続中の特許権、商標権にかかる特許登録件数、商標登録件数を調べました。
以下のグラフは、主要企業263社の商標登録件数(対数)を横軸に、特許登録件数(対数)を縦軸に取って描画した散布図です。
特許は0件から4万5千件以上、商標は0件から7800件以上までばらついています。
尚、主要企業は、東証市場第一部に上場する企業のうち、時価総額が比較的高い企業(TOPIX Core30, TOPIX Large70, TOPIX Mid400)の約500社から、後述するように、7業種の企業群を選択しました。
注記)
企業群の知的財産の動向の大枠を掴むことが目的であるため、ホールディングス企業等、実態を知るのに手間がかかる企業は除いており、各業種に該当する全ての企業が含まれるわけではありません。
また、上場しているものの、例えばホールディングス企業で特許、商標を管理している場合もあって、上記データには実態とは合わないものも含まれる可能性があり、下記の検討は正確性に欠けますが、上記の通り、企業群の知的財産の動向の大枠を掴むには問題ないと考えます。
3)業種ごとの特許・商標登録件数動向
東京証券取引所では上場企業を業種ごとに分類していくつかの株価指数を公表しています。東証業種別株価指数では33業種に区分され、TOPIX-17シリーズでは17業種に区分されます。細分化しすぎると傾向が把握しにくいので、TOPIX-17の17区分の中から注目業種を選びました。
注目した業種は、1)機械、2)建設・資材、3)自動車・輸送機、4)情報通信・サービスその他、5)食品、6)素材・化学、7)電機・精密 の7業種です。
以下に、業種ごとの商標登録件数(対数)、特許登録件数(対数)の散布図を示します。
各グラフにおいて、赤い点は各業種の平均を示し、2つの点線は業種全体の商標登録件数、特許登録件数の平均線です。
ばらつきはあるものの、分布状況は業種ごとに異なるように見受けられます。
4) 業種ごとの知財戦略
以下のグラフは、業種ごとの特許・商標登録の傾向を示す図です。
3)の特許・商標登録件数動向から、平均値を規格化してデフォルメしたものです。
商標は、商品、サービスに使用するものなので、横軸の商標登録件数は、各企業の商品・サービス及び企業自身のブランディング戦略への重点度合いを示すと考えられます。
一方、特許で保護するものは発明(技術的思想の創作)なので、縦軸の特許登録件数は、独自技術の開発・保持への重点度合いを示すと考えられます。
電機・精密、自動車・輸送機分野は、ブランディングにも注力するものの、技術開発・保持に大きな重点をおいているようです。
食品分野はブランディング重視です。業種の特徴上、商品が多いため、商品ブランディングに力を割いていると考えられます。
素材・化学は、技術開発にも注力していますが、ややブランディングに重きをおいているように見受けられます。
機械、建設・資材、情報通信・サービス分野では、知財への重点度が比較的低いようです。
特に情報通信・サービスは意外な気もしますが、企業ブランドに力を入れているものの、商品・サービスの数はそれほど多いため、横軸の増加には現れにくく、またソフトウェア主体で特許発明として顕在化させる技術が少ないためかもしれません。
5) 本調査の売上高分布
以下は、企業263社の売上高のヒストグラムです。
本調査の主要企業263社は、比較的規模が大きい企業としてグルーピングされた企業群から選びましたが、その年間の売上高は数十億円か数十兆円までばらつきます。
6) 業種ごとの特許登録と売上高との関係
業種ごとの特許登録と売上高との関係(両対数)を示します。
特許を取得したために売上高が伸びたのか、売上高に応じて特許を取得したのか、因果関係は明確とは言えませんが、おおよそ右肩上がりの傾向が見て取れます。
自動車・輸送機、素材・化学、電機・精密分野は相関が高く、建設・資材、食品は相関は低いです。
7) 業種ごとの商標登録と売上高との関係
同様に、業種ごとの商標登録と売上高との関係(両対数)を示します。
特許と同様の傾向が見れますが、全体的に相関はやや低いようです
8) まとめ
特許、商標の両方のデータから、業種ごとの特許・商標登録の傾向を調べました。
業種に応じて特許登録と商標登録の重点度合いが異なっており、その傾向は知財戦略の方向性を示すものと考えられます。
また、売上高との関係との関係においては、特許登録、商標登録件数と売上高との間には総じて正の相関がありますが、相関度合いは業種によって異なるようです。
時系列における変化等を調べることで、売上高における特許登録、商標登録の効果を見ることもできる可能性があり、今後、この検討をさらにブラッシュアップできればと思います。